鎌倉 H邸


新しく10区画に造成された分譲地。

その一角に建つこの住まいの計画は、更地からのスタートでした。

初めて敷地を訪れたときまわりにはまだ何もなく、静けさの中に広がる青空がとても印象的だったのを覚えています。

その後、少しずつ周囲に建物が建ち始め、街としての風景が形づくられていきました。

この計画では、そうした「街の中での暮らし」をどう育てていくか、特に「プライバシーの確保」と「街とのつながり」のバランスをどう取るかが大きなテーマでした。

周囲との距離が比較的近いため、塀で囲えばプライバシーは守れますが、街に対して閉じてしまう印象になってしまいます。

そこで、私はリビング・ダイニング・キッチン(LDK)を2階に配置し、外の風景や光と緩やかにつながる、開放的な住空間を提案しました。

まるで海外のリビングのように、内と外が曖昧につながり、心地よい風や光を感じながら過ごせる場所。そんなイメージをもとに、内と外の境界を柔らかくつないだ設計としています。

2階に設けたテラスは、周囲からの視線をやわらかく遮りながらも、空に向かって開かれた場所です。

高さを調整することで、人目を気にせずくつろげるだけでなく、まわりへの圧迫感も与えない、ちょうど良い距離感を生み出しています。

もう一つの大きなテーマは「住まいの中での働く場所」でした。

この計画が進んでいたのは、まさにコロナ禍の最中。

ご夫婦それぞれが在宅勤務をされるという前提で、どうすれば無理なく、心地よく仕事ができるかを丁寧に検討しました。

完全に個室として閉じてしまうと、どうしても圧迫感や孤立感が生まれてしまう。

そのため、仕事場は1階と2階に分けて設けることで、音や気配の干渉を最小限にしつつ、住空間の一部として自然に溶け込むようなつくりとしました。

2階には奥様のワークスペース。リビングやテラスとやわらかくつながっていて、仕事の合間にふと視線を外に向ければ、空の広がりを感じられるような空間です。

一方、1階にはご主人のスペースを。こちらは静けさを保ちつつも、外とゆるやかにつながる場所となっています。

1階には2つのテラスを設けました。ひとつはエントランスに面した芝生のテラスで、愛犬がのびのびと遊べる場所に。

もうひとつは、椰子の木を望む落ち着いたタイルテラス。

どちらのテラスも、ご主人のワークスペースから見渡せるように配置しており、作業の合間にふっと気持ちを切り替えられる、癒しの存在になっています。



街の中に建ち、街とともに育っていく住まい。

この家は、家族それぞれの暮らし方や時間の過ごし方を大切にしながら、街や自然とのつながりを失わないよう、ひとつひとつ丁寧にかたちづくりました。





DATA


竣工    :2022年

用途    :専用住宅

構造    :木造枠組 2階建


設計    :スターホーム株式会社 在籍時担当作品 < 担当 / 松野 >

構造設計  :BX TOSHO株式会社

施工    :スターホーム株式会社

写真    :東涌宏和

T.A.E.architect

T.A.E.architect 一級建築士事務所

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